年々去来の花を忘るべからず
世阿弥『風姿花伝』
【意味】
毎年ごとの、花が咲いて散る姿を忘れてはいけない。
【解説】
『風姿花伝』には、能の演じ方が年齢に応じてどう変わるかが記されている章がある。年齢を重ねて心持ちや体力が変わり、稽古を重ねて技術が磨かれることで、演技も自然と変わる。年代ごとの演技の有り様が「年々去来の花」である。
年々去来の花を忘れてはいけないとは、各年代の時にどんな演技をしていたかを覚えておくべきということだ。始めたばかりの未熟な時、体力も技術も充実している時、体力が衰えて思うようにできなくなった時、その全てを覚えて使い分けることで、演技は味わい深いものとなる。とは言え、その域に達した演者はいないだろうと世阿弥は記している。
仏教に「諸行無常」という教えがある。この世の全ては一つの姿に留まることなく変わり続けるという教えだ。
私達の人生もその時だけの姿があり、その積み重ねとして今の自分がある。そう思ってこれまでの人生を心に残しながら、新しい今を積み重ねて欲しい。いつかは忘れてしまうかもしれないが、たとえ思い出せなくても、全ては今の自分を形作る上で欠かすことができない年々去来の花である。