今月のことば  令和5年 8月

永久の未完成これ完成である

宮沢賢治『農民芸術概論綱要』

 

【解説】

 最近は書くことや描くことにおいてもデジタル化が進んでいる。紙やインクを使わず、パソコンの画面上に文章を書き、絵を描く。そのメリットとして、修正が容易なことが挙げられる。

 

 この文章もパソコン上でワープロソフトを使って作成している。誤字脱字はすぐに直せる。大幅な内容の書き換えも簡単にできる。前段と後段を書いてから中段を挿入することも可能だ。手書きでは面倒なことも、ワープロならあっという間に終わる。

 

 一方、やり直しが簡単にできるため、いつまでも修正をやめられず、完成させられなくなることもある。手書きなら今更直せない、画材の消耗がもったいないからと諦めざるを得ない場合でも、デジタルならやり直せてしまう。それを避けるため、あえてデジタル化しない作家もいるという。

 

 より良い物を作りたいと願うのは当然だが、最高の状態を求めて手を加え続けていけば、いつまでたっても終わらない。「まだ改善の余地があるかもしれない、未完成かもしれない」という不安を受け入れ、これ以上何もしないと決断することが、完成させるということだ。

 

 人間の欲望にはきりがない。だからそれを最小限に留めるべきである。その為には自分の置かれている環境を正しく知り、物事の限界を見極めなければならない。それが悟りを開き、仏となるということである。