今月のことば  令和4年 9月

古人の跡を求めず 古人の求めたる所を求めよ

-松尾芭蕉-

 

【意味】

 昔の偉人が残した目に見える痕跡を求めず、その人が目指した志を求めなさい。

 

【解説】

 戦国武将の毛利元就が三人の息子達に伝えたとされる「三本の矢」の話がある。

「一本の矢なら簡単に折れてしまうが、三本束ねれば簡単には折れない。このように兄弟三人で力を合わせて家を守って欲しい」

 広く知られた話だが、本当にあった話ではなく、元就が息子達に送った書状に基づいて後世に創作された話だと考えられている。

 

 歴史上の人物に関する有名な逸話が史実ではないということは他にも数多い。逸話の真偽を確かめ、正しい歴史を明らかにすることも大切だ。しかし、創られた逸話が何を伝えようとしているかを考えることも大切だ。「三本の矢」の話は実際にはなかったかもしれないが、皆で協力し合うことが必要なのは本当のことである。だから広く知られ、今日まで伝えられてきたのだ。

 

 

 仏教の経典も、現代の私達から見れば非現実的に思える描写がたくさんある。人間にはない不思議な力を持つ仏様、この世界とは別の理想郷である浄土、そんなものはあり得ないと言ってしまえば、その話を通じて示された悟りへの道筋を見逃してしまう。今は「もしかしたらそんなこともあるかもしれない」という程度でいいから心の片隅に留めて欲しい。いつか仏様や浄土を必要とする時が来たら、心の片隅からの心全体に自然と広がることだろう。