今月のことば  令和4年 7月

前に古人を見ず 後に来者を見ず

-(ちん)()(ごう)-()

 

【意味】

 自分が生まれる前の時代の人に会うことはできない。自分が死んだ後の時代の人に会うことはできない。

 

【注釈】

・陳子昂(六六一~七〇二)…中国初唐の詩人。唐代以前の素朴な詩風の復興を主張し、李白や杜甫など盛唐の詩人にも影響を与えた。

 

【解説】

 私達には両親がいる。両親にもそれぞれの両親、自分から見れば祖父母がいる。祖父母にもそれぞれの両親が……と先祖を遡っていけばどこまででも遡れるが、会ったことがあるのはせいぜい曾祖父母までではないか。もっと古い時代の先祖については、代々何かを継承する家柄でもなければわからないことがほとんどだろう。

 

 逆に大昔の先祖からすれば、今の私達の存在は未確定のことである。そして私達にとっても、次の時代のことはわからない。自分が死んだ後子孫はどうなるのか、世の中はどうなるのか。生きている内に確かめることはできない。

 

 私達が身をもって知ることができるのは生きている間のことだけ、自分が見聞きして体験したことだけだ。それは長い歴史のほんの一瞬、広い世界のごく一部でしかない。

 

 仏教に「無記」という教えがある。世の中には人間の見聞が決して及ばない事柄がある。そういう問題に対しては「わからない」という答えが最善であるという教えだ。それは考えることの放棄ではない。人間の限界を知り、無力さを受け入れることによって、無意味な執着を捨てて正しい智恵を持つことができる。それが悟りを開くということである。