今月のことば  令和4年 5月

静中の静は真の静にあらず

『菜根譚』

 

【意味】

 静かな場所でしか保てない心の静けさは、本当の心の静けさではない。

 

【注釈】

・菜根譚…中国明代(一三六八~一六四四)の末期に洪自誠が記したとされる訓話集。洪自誠という人物の詳細は不明。

 

【解説】

 静かな場所で心を落ち着けようと思っても、音がないはずなのに何か聞こえる気がしてしまう。諸説あるが、静かすぎると耳の中の神経が音を探して過剰に動き、それが音として感じられるのだという。だから全くの無音よりも、多少の心地よい音が聞こえた方が、心は静けさを感じやすくなる。

 

法然上人は心を落ち着けてから念仏を唱えるべきかという質問に、念仏を唱えることが心を落ち着かせてくれると答えている。念仏を唱えることに専念すれば、心は阿弥陀様の導きで満たされ、それ以外の雑念は心から無くなる。それが念仏の功徳である。

 

 心の静けさはどこから来るのか。自分の行動なのか、周りの環境なのか。何もしないよりは何かした方が心が落ち着くこともあるし、静かな所でじっとしていると心が落ち着くこともある。時と場合によると言ってしまえば身も蓋もないが、それが人間の難しさなのだ。だから仏教には様々な教えがある。一人一人に、その時ごとに最善の教えがある。法然上人は念仏の功徳を説くが、あくまで選択肢の一つだ。誰もが自分なりの方法で心の静けさを得られるように導いてくれるのが仏様の教えである。