今月のことば  令和4年 2月

引く人も引かれる人も水の泡

浮世なりけり淀の川舟

-大綱宗彦(だいこうそうげん)-

【意味】

 舟を引く人も、舟に乗って引かれる人も、泡のように儚い身である。人の世はそのような舟が行きかう川のようだ。

 

【注釈】

・大綱宗彦(一七七二~一八六〇)…臨済宗大徳寺派の大本山である大徳寺の四百三十五世住職。

 

【解説】

 古来より人間はどうにもならないことがあればまじないを行い、わからないことを説明する為に神話を考えた。しかし科学が発達し、かつては不可能だったことが可能になり、わからないことがわかるようになった。その結果、まじないや神話は迷信として忘れられていった。

 

 それを人間の思い上がりという者もいる。世の中には人間の力の及ばないことがあると言う。確かにそうだろう。しかし、安易に超常的な事柄を持ち出すことは、自分で考えて問題に取り組むことを放棄することだ。

 

 仏様には神通力があり、その力で人知を超えた現象を起こして人間を救うという説話はたくさんある。しかし、本来仏様は私達に教えを説いてくれる存在である。その教えを受け、私達は進むべき道を自分で探すのだ。

 

 

 この世界の問題に対する答えは、この世界の中にある。人の世を良くするのは、今ここにいる私達自身なのだ。私達にはそれだけの力が備わっている。仏様の教えがその力に気付かせてくれる。そしていつかは自分も仏となり、次の人に道を示す。これが仏教の目指す誰もが仏となる世界である。