今月のことば  令和3年 6月

或る人は十銭を以て一円の十分一と解釈し

或る人は十銭を以て一銭の十倍と解釈す

夏目漱石『虞美人草』

 

【解説】

 同じ事柄であっても、それをどう受け取るかは一人一人が置かれている状況や持っている価値観によって変わってくる。その違いが人それぞれの個性である。

 

 仏教には多くの宗派がある。お釈迦様の教えをどう受け止めたか。人によって、地域の環境や文化によって様々な違いがあった。だから宗派に分かれ、そこからさらに分派していった。浄土宗も法然上人の死後、その教えの解釈を巡りいくつかに分かれた。その後も一つの教団にまとまったり、再び別れたりしながら現在に至っている。それは自分なりの考えを持つことが許されているということであり、その大らかさこそが仏様の心である。

 

 お経は「如是我聞(にょぜがもん)」という言葉から始まる。これは「私はこのように聞きました」という意味である。お経は教えを受けた人の主観によって書かれている、ということが大切だ。教えをどう受け止めて次に伝えていくか。考えるのはあくまで自分自身である。

 

 お経に書かれている言葉は同じでも、それを読んで思うことは一人一人違う。だからそれぞれの立場や考え方に基づいて、自分なりの仏教を確立する。それが仏教を実践するということである。