今月のことば  令和2年 9月

我々の生活に必要な思想は三千年前に尽きたかもしれない。我々はただ古い薪に新しい炎を加えるだけであろう。

芥川龍之介『河童』

 

【解説】

 歴史上に「四聖」と称される四人の偉大な思想家がいる。ソクラテス、孔子、イエス・キリスト、そしてお釈迦様である。いずれも二千年から二千五百年ほど昔に生きた人達である。それを踏まえると、必要な思想が三千年前に出尽くしたという指摘は一理あるのかもしれない。

 

 四聖に代表されるはるか昔の教えが、今回取り上げた言葉に出てくる古い薪であろう。そして昔の教えを今の私達がどう受け止め活用するか、それが新しい炎を加えるということになるだろう。

 古くなって燃えなくなった薪は捨てられる。同様に時代が変わって通用しなくなった教えは忘れ去られる。大昔の人達の教えが今なお受け継がれているということは、そこに普遍的な真理があるということだ。表面的な世相が変わろうとも、変わることのない真理は人々が生き方に迷った時の導きとなる。

 

 仏教の根本となる薪は、約二千五百年前にお釈迦様が体得した真理と、そこに至るまでの道のりである。それを私達は自分なりの方法を燃やしていけばいい。人は誰もが別々の新しい炎であり、仏教はどんな炎にも応えて燃え上がる薪である。ありのままの自分の心で仏教に接すれば、仏様はその心に必ず応えてくれる。