今月のことば  令和2年11月

魚は水に飽かず。

魚にあらざればその心を知らず。

『方丈記』

 

【意味】

  魚はずっと水中にいるが飽きることはない。魚でなければその心はわからない。

 

【解説】

  よく「相手の立場に立とう」とか「人の気持ちを考えよう」と言う。果たして私達はどこまでそれを実現できるのだろうか。他人の立場を完全に知ることはできないし、目には見えない気持ちを推し量ることは、自分自身のことであっても難しい。

 

相手のことを考えて気持ちを知り、それに基づいて行動するのは困難なことだ。それでもお互いに気持ちを分かり合おうと手探りを続けていけば、いつかその手と手が触れる時が来るだろう。その時「分かり合いたい」という気持ちが通じ合う。それだけでも充分に相手の心に近づいたことになる。

 

 仏教に対機説法という考え方がある。仏様が教えを説く時は、受ける相手の性質や能力に合わせて、その人にとって最もふさわしい方法で教えを説くことをいう。

 

  何事にも囚われず、全てを見通している仏様だから、対機説法が可能なのかもしれない。しかし、たとえ仏様のようにはできなくても、少しでも人と心を通じ合わせようとしていきたい。それが仏となることに繋がっていくだろう。誰もが仏となってお互いの心を分かり合う。そうなれるように仏様は私達を導いてくれる。