十方界に入って苦の衆生を救摂せん
『往生礼讃』
【意味】
仏となったらこの世界に帰って来て、苦しむ人々を救おう。
【注釈】
・十方界…私達がいるこの世界。
・往生礼讃…中国の善導大師(六一三-六八一)の著書。浄土往生への願いと阿弥陀仏への称賛を詠んだ詩文。
【解説】
今回の言葉は、『往生礼讃』の中でも「発願文(ほつがんもん)」と呼ばれている一段落からの引用である。法然上人は往生礼讃に記された専らに念仏を唱えるという教えに感銘を受け、浄土宗を開くことになる。私達の普段のお勤めでも、往生礼讃から引用されたものを多く読んでおり、発願文もその一つだ。そこに記された願いの一つが、仏となってこの世界に帰って来て、苦しむ人々を救うことである。
浄土宗は浄土往生を目指す教えである。しかし、浄土は仏となるための場所である。仏となった後は、留まり続けずこの世界に帰って来る。浄土と天国はしばしば混同される。どちらも「この世界とは別に存在している、清らかな理想郷」という大まかなイメージは共通している。しかし実際には様々な違いがある。その一つとして「天国に行けばそこに留まるが、浄土はそこで留まらない」ということが挙げられる。
仏となったら、次の人を浄土へと導くためにこの世界に帰って来よう。そうして全ての人が浄土へと辿り着き、仏となる。それこそが浄土を築いた阿弥陀様の願いである。