今月のことば  平成29年12月

 

物に最初から複雑をもって始まるものはめったにない

柳田國男『先祖の話』

 

解説】

 宗教には儀礼が付き物だ。お参りのやり方、神仏の祀り方などに様々な決まりがある。

 その歴史を紐解くと、本能的な信心から生まれた質素で簡単な儀礼から始まり、やがてより深い信心を表そうとお金と手間暇をかけるようになる。それが行き過ぎると儀礼は形ばかりとなって意味を失い、本来の信心に立ち返るべく簡素なものになる。多くの場合はこの変化を繰り返して現在に至っている。

 法然上人の教えは、ただひたすら念仏を唱えればいい、という簡素なものだった。貴族社会で発達した当時の日本仏教は、難解でお金のかかるものになってしまい、多くの庶民には実行できないものになっていた。それに疑問を持った法然上人は様々な経典を読み返し、往生を願って念仏を唱えれば誰もが往生できるという教えこそが、阿弥陀様の本当の教えであることを再発見する。これが浄土宗の教えの根本である。

 浄土宗にも念仏を唱える以外の様々な儀礼がある。仏様の祀り方、お勤めのやり方に迷う人も多いだろう。しかし、念仏以外の儀礼はより良い念仏を唱えるための補助として行う。念仏こそ法然上人が私達に教えて下さった一番大切な原点である。まずは往生を願って南無阿弥陀仏と唱えることから始めよう。その先はどんなやり方でも、私達の心は必ず阿弥陀様に届く。