励むも悦ばし正行増進の故に 励まざるも悦ばし正因円満の故に
―証空上人―
【意味】
一生懸命頑張るのは喜ばしいことである。正しい仏道修行がはかどっているのだから。
一生懸命頑張らないのは喜ばしいことである。その必要がないほどに阿弥陀仏の慈悲に満たされ、浄土往生が約束された中で生きていけるのだから。
【注釈】
・正行=正しい仏道修行。浄土宗においては特に念仏を指す。
・正因=浄土往生の原因。正行の結果、正因が生じる。
・証空(一一七七~一二四七)=法然上人の弟子。浄土宗西山派の開祖
【解説】
試験前には、試験に備えて頑張って勉強するだろう。それが実を結び、良い成績を収められたらとても嬉しい。しかし、根を詰めすぎて体調不良となっては、充分な成績は収められない。
何事もほどほどに、と言うが、どれほどが「ほどほど」か。私たちはそれがわからず、頑張りすぎたり、怠けすぎたりする。
仏教における人間の理想的な生き方は、頑張りすぎ、怠けすぎのどちらにも偏らない生き方だ。これを「中道」という。冒頭に挙げた証空上人の言葉は、中道を目指す一つの指針であり、阿弥陀仏に全てを委ねて生きる浄土門徒の心得である。全てを前向きにとらえて常に喜びの気持ちを持つ。その喜びが「南無阿弥陀仏」という念仏となって私たちの口から溢れる。
頑張って自分の力で成し遂げたことを喜ぼう。頑張れなかった時は、仏様のおかげで頑張る必要がなかったことを喜ぼう。両方を喜べば、どちらかに偏ることはない。
人生には否が応にも頑張らなければならない時がある。その時に、仏様が「頑張れよ」と私たちに声をかけてくれる。必死で張るのはその時。それまではのんびりしよう。それでも間に合うよう、仏様はいつもこっそり手助けしてくれるから。