「最初から始めろ」王はおごそかに言った。
「そのまま続けて最後になったら終われ」
ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』
【原文】
Begin at the beginning,the King said gravely,and go on till you come to the end: then stop.
【解説】
お経にはお釈迦様の説いた教えが記されている。しかし、一巻の経典にはそれだけが記されているのではない。
お経の冒頭には、お釈迦様が「いつ、どこで、誰に対して」教えを説いたかが書かれている。ここまでがいわば前書きである。その後に、お経の本題であるお釈迦様の説いた教えが記される。
お釈迦様の教えは、相手や状況によって説き方が変わる。お釈迦様が何故その教えを説くことになったのか。その経緯を知ることによって、本題となる教えに対する理解もより深まる。
お釈迦様が教えを説き終わった後は、聴衆の反応が描かれる。ここからは後書きと言える。教えを受けてどう思ったか、今後どうするかなどを記してお経は締めくくられる。これもお釈迦様の教えが聞き手にとってどんな価値があるかを知る手がかりとなる。
仏教の教えはそれ単独で存在するのではない。説く者と受ける者がいるから生まれる。だからお経には教えを説くまでの経緯と、終わった後の反応も記される。一巻を最初から最後まで読んで両者の気持ちを知ることで、そのお経の意味を一層感じ取れるようになる。